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東京大学医学部附属病院 リハビリテーション部 物理療法(鍼灸)部門です。

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よくあるお問い合わせFAQ

 医療従事者からよく聞かれる鍼灸Q&A
     (中高齢者の鍼灸療法 / 宮本俊和, 冲永修二編著  医道の日本社 , 2015年  P84より抜粋)


Q1 鍼灸治療でどこまで良くなるのか?また治療中に痛みが悪化することはないのか?

  • 我々が行っている治療は、治療前に顔色や会話、バイタルを確認し、以下の内容を治療目的として行っています。
    ①症状を少しでも軽くして日常動作がしやすい状態にする。
    ②高齢患者の疲労の変動は大きく、適時刺激量を変え対応する。
    ③意欲(モチベーション)をできるだけ保つよう工夫する。
    つまり、毎回患者さんの状態を把握しながら治療を行い、悪化した場合は原因等を考慮し対応しなくてはいけません。ですので、特に高齢者の治療においては、病気や老化による機能・形態の変化そのものが治るような説明は行わず、上記のような方針で治療を行っていることを医療従事者にも丁寧に説明する必要があります。


Q2 ワーファリン等の抗凝固剤や抗血小板剤服用の患者に出血傾向があるが、鍼灸は大丈夫か?また、高齢者は足水虫やキズ、タコなど神経障害、循環障害、易感染からくる足病変を認める患者が多いが、足局所の鍼灸治療は大丈夫か?

  • 1. 出血傾向のある患者さんの対応について
    鍼灸治療による火傷や出血等は十分に注意する必要があります。鍼灸治療における感染防止の指針(1993,医歯薬出版)の出血防止のポイント事項にあるように、①皮下で脈動をふれる太い動脈血管を刺傷しない。②必要以上の太い鍼の使用を避ける。③粗暴な刺鍼を避ける。④刺鍼後は刺鍼点に指頭圧迫などを10秒以上持続するなどを参考にして、出血傾向のある患者に対する鍼治療には十分に注意をして治療を行い、加えて医療機関の情報を収集し、総合的に患者の病態を把握することが施術者の役割であり、医療従事者には、患者さんの状態によってはリスクがある場合は治療を行わず、鍼の刺す場所(局所を避ける)や刺激の強さ(場合によっては接触鍼)などを工夫して、少しでも症状を軽くするよう心掛けていることを説明しています。

    2. 糖尿病性神経障害などの足病変に対する鍼灸治療の対応について
    糖尿病患者は神経障害、血流障害、易感染傾向もあるため、皮膚の傷をつくらないことがフットケアとしては重要で、鍼灸治療による火傷や出血等は十分に注意する必要があります。
    足局所に治療の禁忌として、
    ① 血糖値のコントロール不良例
    ② 腫れや皮膚の色の急激な変化
    ③ 膿がみられる
    ④ 傷や潰瘍が認められる
    ⑤ 安静時痛、触痛覚鈍麻 
     等の所見が認められる場合は局所の治療は避けるなどを行い、感染防止に努めています。

Q3 血行が良くなることで、がんが進行するのでは?

  • この質問は、鍼灸治療で末梢神経内の血流改善が得られる場合、がん細胞が増殖する可能性について懸念しています。鍼灸治療でそのような大きな変化はないと思われますが、運動による全身活動の増加や温熱療法も同様の疑問を持つ医療従事者も少なくありません。現状のエビデンスの面からも、はっきり分からないというのが本当のところです。ですが、高齢のがん患者さんの場合、治療で痛みや疲労、副作用などの改善が得られるメリットのほうが大切と思われます。なお、がん患者における鍼灸治療の中止基準は下記の通りです。
    • 血液所見:ヘモグロビン7.5g/dl以下、血小板50,000/μl以下、白血球3,000/μ以下
    • 臓器、血管、脊髄の圧迫
    • 強い呼吸困難、運動制限を伴う胸膜、腹膜への滲出液貯留
    • 中枢神経系の機能低下、意識障害、頭蓋内圧亢進
    • 低・高カリウム血症、低ナトリウム血症、低・高カルシウム血症
    • 起立性低血圧、160/100mmHg以上の高血圧
    • 110/分以上の頻脈、心室性不整脈


Q4 人工関節周囲の鍼施術は安全か?
  • 骨・関節術後感染予防ガイドライン(日本整形外科学会診療ガイドライン委員会.2008年,南江堂)内の、術後SSI(Surgical Site Infection:手術部位感染)の発生率、起炎菌易感染性宿主の内容を参考に、「福岡医療連携推進会」は以下の禁忌事項を決定しています。
    「人工関節手術は感染のリスクが高く、また感染した場合のダメージも大きい。万が一にも感染要因にならぬよう、またリスク管理のためにも万全を期す必要がある。故に人工関節手術が決定した場合は、手術予定日の3カ月前より手術部位周辺への鍼灸施術は行わない。手術後は、この範囲への鍼灸施術は無期限で行わない」
    特に糖尿病、関節リウマチ、血液透析患者は術後SSIの発生率が高いため注意が必要です。特に医療従事者には、経験からモノを述べるのでなく、これらガイドラインや禁忌事項を参考に説明されると良いでしょう。


    人工関節置換術の鍼灸施術禁忌範囲(福岡医療連携推進会のガイドラインより引用改変)

    ①人工股関節置換術
    施術禁忌範囲:腸骨上端から大腿中央まで

    ②人工膝関節置換術
    施術禁忌範囲:膝蓋骨上端より10 cm近位から膝蓋骨下端より10cm 遠位まで

    ③人工肘関節置換術
    施術禁忌範囲:肘頭より10cm 近位から肘頭より10cm 遠位まで

    ④人工肩関節置換術
    施術禁忌範囲:鎖骨遠位端より10cm 内側から鎖骨遠位端より10cm 遠位まで

    ⑤人工足関節置換術
    施術禁忌範囲:腓骨遠位端より10cm 近位から腓骨遠位端より10cm 遠位まで




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